世の中の常識の一つとして、新参者が厳しい洗礼を受ける事態はしばしば起こり得ます。新規参入をしてみた事業が思うように軌道に乗らなかったり、引っ越した場所で人間関係を上手く築きあげる事が難しかったり、新たな事への挑戦をしてみてくじけそうになったことのある人も多いでしょう。人は知らないものに対して無意識のうちにバリアを張ってしまう生き物です。見たことも聞いたこともない未知の物は、一先ず遠目から観察するに限るのでしょう。危険がないかどうかをしっかりと見極めた上でなければ、容易に近づくことはなかなかしません。うっかり手を出してみて噛みつかれでもしたらどうしようかと、そのような生物的な危機感が働いているのかもしれません。
ところが全くもって危険のない物事に対しても、人は同じような反応を示すことがあります。流行の最先端を行きすぎている人が、時に変わり者呼ばわりされてしまうという事は少なくないはずです。その時代や文化にとってはとても奇抜で物珍しいものであっても、それが危険でない事は誰もが理解しています。しかし見たことも聞いたこともないものだからこそ、疑り深い本能がじわじわと発揮されてくるのです。たとえとても素晴らしくより良い物だったとしても、知らないからという理由ですぐには受け入れられないかもしれません。何かのきっかけで受け入れられるようになったとしても、そこまでの道のりは非常に険しい事が少なくないでしょう。
このように人は知らないものに対して少なからず警戒心というものを抱きます。例えばテレビで紹介されるスイーツの中に海外で流行っている奇抜な色をしたお菓子が登場していたらどう思うでしょうか。日本にまだそのお菓子は上陸していません。あまりの奇抜さに気にはなるものの、少々腰が引き気味になってしまう事の方が多いかもしれません。
ですがその一方で、パンケーキのような馴染み深いスイーツが画面に映し出されていたらどうでしょうか。最近オープンしたばかりのお店の特集だったとしても、パンケーキという、よく知っているスイーツというだけで興味を抱けるはずです。素材や生地の焼き方にこだわりを持っていたり、メニュー開発が独自に進んでいたりして、新感覚系スイーツとしてパンケーキの紹介がされているかもしれません。
しかしたとえ新しいものであったとしても、パンケーキというベースは日本人には深く定着しています。知っている物が何かしらの進化を遂げていたとしたら、不思議とそこには警戒心を抱かず自ら近寄りたい気分になるものなのです。もしかすると人気になるスイーツとは、パンケーキのように親近感を持てるおやつなのかもしれません。